─連載─ 森弘達先生と読み解く教育改革最前線㉖
AI時代に重要性が高まる 探究する力・読解力・思考力・表現力
〜東大入試現代文、医学部入試小論文、慶大入試小論文、ディベート、探究を通して考える〜
今回は、30年にわたり、昭和薬科大学附属高等学校・中学校、武蔵野大学附属千代田高等学院(現千代田中学校・高等学校)、大妻中学高等学校、明星中学校・高等学校、Z会映像コース・国語力研究所、静岡県のトップ公立・私立高等学校の難関大学進路指導支援・医学部受験指導等で大学受験指導や探究教育、学校改革に携わり、東大合格者100名以上、医学部合格者1000名以上、海外トップ大学合格者を指導、東京学芸大学大学院教育学研究科(教職大学院)で学校経営、学校組織マネジメント、「学習する組織」を研究、2025年度から札幌日本大学中学校・高等学校副校長として学校経営や学校改革、先端教育をリードする森弘達先生が、AI時代に重要性が高まる探究する力・読解力・思考力・表現力について、東大入試現代文、医学部入試小論文、慶大入試小論文、ディベート、探究を通して読み解きます。また、森先生が推進する難関大学受験指導と探究教育との両立に対して、教育界からその内容や成果に期待と関心が高まっています。
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生成AIの登場で勉強は必要か?
ChatGPTをはじめとする生成AIの進化は、私たちの「読む」「考える」「書く」という行為そのものを変えつつあります。少し前まで、生徒がレポートや論文を書くためには、本や論文を探し、必要な情報を読み、自分で構成を考え、文章を書かなければなりませんでした。
しかし、現在では生成AIにテーマを入力すれば、数秒で文章の草稿を作成できます。また、要約、翻訳、情報整理、文章校正も可能です。すると当然、「生成AIが答えを書いてくれるなら、勉強は必要なくなるのではないか」という疑問が生まれます。
私は、むしろ逆だと考えています。AI時代だからこそ、読解力・思考力・表現力の重要性は、これまで以上に高まる。なぜなら、生成AIが生み出した文章そのものを、最終的に評価するのは人間だからです。
その答えは本当に正しいのか。根拠は何か。どのような前提に立っているのか。事実と意見は区別されているか。
重要な反論が抜け落ちていないか。複数の資料を比較したときに矛盾はないか。また、生成AIの出力を「読む力」がなければ、生成AIを使いこなすことはできません。
そして、情報を読んだ後には、「読む→比較する→関係づける→考える→判断する→表現する」という一連の知的活動が必要になります。この力をどのように身に付けるのか。私の教育の原点は、「正解」より「そこに至る思考」や「納得解」を教えることです。
「思考過程の可視化」が大切
私は、地歴公民・社会科教諭であり国語科教諭でありませんが、長年、学校教育の現場だけでなく、Z会国語力研究所研究員、Z会映像コース講師、大前研一氏創設の政策学校一新塾講師として、小論文指導や論述指導、小論文教材や国語教材の執筆、ディベートやプレゼンテーション指導に携わってきました。その中でとりわけ大切にしてきたことが「思考過程の可視化」です。
「なぜこの段落を見るのか」「なぜこの言葉に注目するのか」「どのように対比を見つけたのか」「どの根拠を選び、どの根拠を捨てたのか」「なぜこの順番で答案を書くのか」そこまで言語化して初めて、解法は再現可能になります。
30年にわたる大学受験指導では、問題の着眼点、知識や解法の使い方、解答としてまとめるまでの「論理的なアプローチ」を重視してきました。授業では、「設問確認→構造化→根拠抽出→解答要素化→答案作成→推敲」という流れで指導しています。重要なことは「答えを覚えること」ではありません。答えに到達する思考を再現できることなのです。
受験生の「書けない理由」
「課題文を正確に読めていない」「問いを正確に理解できていない」「自分が主張したいことを整理できていない」「根拠と結論の関係がつながっていない」という生徒は増えています。つまり「書けない」のではなく、「読む→考える→構造化する」という過程が十分にできていないのです。
文章を書く力は、読解力や思考力から独立して存在するものではありません。だから私は、「読解力×思考力×表現力」を一体として育てなければならないと考えています。
文章を「構造」で読む
私は授業で、文章を読む際に特に四つの関係を意識させます。対比、因果、具体と抽象、言い換えです。
例えば、A⇔Bという対比です。自己と他者、身体と精神、個人と社会、自然と人工など、難しい文章でも、「筆者は何と何を区別しているのか」と考えるだけで、構造が見えてきます。
次に、A→Bという因果。「なぜか」という問題では、答えを直前から探すだけでは不十分です。「背景→原因→作用→結果」という流れを組み立てる必要があります。
さらに、重要なのが、具体⇄抽象です。具体例を読んだら、「この事例は、結局何を意味するのか」と考える。逆に抽象語に出会ったら、「具体的にはどういうことか」と考える。この思考こそが本当の意味での読解です。
東京大学が入試国語で求めているもの
東京大学は、「高等学校段階までの学習で身につけてほしいこと」において、国語の能力を大学での教育・研究の基盤として位置づけています。特に重視されているのが、文章を論理的に読み取る力と、それを明確な日本語で表現する力です。さらに東京大学の入試は、国語を原則として論述式で出題し続けています。ここが重要です。
「読んで選ぶ」だけではない。読んだ内容を、自分で再構成して書く。これはAI時代にますます重要になる能力です。
生成AIから大量の情報を得ても、「結局、何が重要なのか」「何と何が対立しているのか」「どの情報とどの情報がつながっているのか」「どこまでが事実で、どこからが推論なのか」を判断できなければ、情報は知識にはなりません。
東大入試現代文で「斜め」から対話を考える
2026年度東大入試国語の第一問は、松本卓也氏の『斜め論─空間の病理学』から出題されました。精神分析とオープンダイアローグなどを通して、人と人の関係や対話のあり方を考える文章です。
この文章では、一つの対比だけを見ていては十分ではありません。精神分析とオープンダイアローグ、垂直的関係と水平的関係、専門家と当事者、などの複数の関係を整理しながら読む必要があります。語彙力、文脈的読解、限られた解答欄へ内容をまとめる論述力も重要です。
ここで大切なのは、二つの考え方を単純に、「どちらが正しいか」と見るのではなく、「両者はどのような関係にあるのか」と考えることです。
医系小論文で「当事者意識」を鍛える
私は長年、医学部医学科を受験する生徒の小論文を指導してきました。医系小論文では、生命倫理、臓器移植、終末期医療、地域医療、医師不足、感染症、再生医療、AI診察など、簡単には「正解」が決められない問題が多く出題されます。
実際に、私が担当した医療系探究でも、医療や生命倫理をテーマとして、生徒が600〜800字程度で自分の考えを論述し、それを毎回添削する授業を行ってきました。
こうした問題では、「私はこう思う」だけでは答案になりません。重要なことは、「主張→根拠→具体例→反対意見→再反論→結論」という思考です。さらに、「患者の立場からはどうか」「医師の立場からはどうか」「社会全体ではどうか」と視点を変える必要があります。
慶大小論文で「正解のない問題」を考える
慶應義塾大学の小論文指導にも長く携わってきました。特に、総合政策学部や環境情報学部などでは、単なる文章要約ではなく、社会課題を発見し、資料を分析し、自分なりの解決策を構想する力が求められます。Z会の講師陣とともに「慶應義塾大学小論文対策講座」を実施し、経済やGX(グリーン・トランスフォーメーション)などを題材としたオリジナル問題による指導も行いました。
こうした小論文では、問題発見力が重要になります。生成AIに問いを入力すれば、答えらしきものは返ってきます。しかし、「そもそも何を問うべきなのか」を決めるのは、人間です。AI時代には、「答える力」以上に、問いを立てる力が重要になるのです。
政策学校一新塾で指導した「考えを他者に伝える」こと
もう一つ、私の指導法に大きな影響を与えた経験が、大前研一氏が創設した政策学校一新塾での教育です。一新塾は政策提言、社会起業、市民プロジェクトなどを通じて、社会課題を自ら発見し、行動する人材を育成してきました。
私は講師として、政治家や社会起業家を対象としたディベートやプレゼンテーション教育に携わってきました。ディベートやプレゼンテーションで重要なことは、「自分の意見を強く言うこと」ではありません。
相手の主張を正確に聞き、論拠を分析し、反論可能性を考え、自分の主張を根拠とともに提示する。さらに相手の反論を受けて、自分の考えを修正する。つまり、「読解力→思考力→表現力→対話力」という循環です。
プレゼンテーションも同じです。「自分が言いたいこと」ではなく、「相手に何が伝わるか」を考えなければなりません。
生成AIを「思考の鏡」として使う

一見すると、東大入試現代文、慶大入試小論文、医学部入試小論文、探究学習、ディベート、プレゼンテーションは別々の教育活動に見えます。しかし、私はすべて同じ一本の線でつながっていると考えています。それは、「問い→読解→分析→構造化→判断→表現→対話→再考」という知的プロセスです。
東大入試現代文では、設問を読み、文章を分析し、根拠を選び、答案を書く。入試小論文では、問いを分析し、自分の立場を決め、根拠を組み立て、文章にする。ディベートでは、相手を読み、自分の論を構築し、反論を受けて再反論します。探究では、問いを設定し、情報を集め、分析し、考察し、発表する。どれも本質は同じです。
生成AIを「解答代行者」ではなく「思考の鏡」にします。生成AIを学校教育で使うとき、最も避けたいのは、「生成AIに答えを書かせて終わり」という使い方です。
例えば、問題を生成AIに解かせた後、「本文のどこが根拠ですか」「なぜその表現を選んだのですか」「この答案に不足している要素はありますか」「反対の解釈は成立しますか」「40字短くするとしたら、何を削りますか」と問い返してみます。そして、最後には、生徒自身が生成AIの答案を評価する。すると生成AIは、答えを出す機械から、自分の思考を映し出す鏡へ変わります。
教師の役割も変化します。知識や正解を一方的に伝えるだけでなく、「なぜ?」「根拠は?」「別の見方は?」「もっとよい言葉はないか?」と問い返し、生徒の思考を深める存在になるのです。
学力の本質は、「どれだけ答えを覚えているか」ではない
未知の問題に出会ったとき、何を問われているかを読み取り、情報を整理し、関係を発見し、自分なりの考えをつくり、その考えを他者に伝わる形で表現し、さらに他者との対話を通じて考え直す。この力こそが、本当の学力なのではないでしょうか。
私はそれを、読解力─世界と他者を正確に読む力、思考力─情報を関連づけ、意味をつくる力、表現力─自分の考えを他者に伝える力と考えています。
AIが進歩すればするほど、この三つの力は重要になります。生成AIによって「答え」を得ることは、ますます簡単になるでしょう。
だからこそ学校教育は、「答えを教える教育」から「問いを生み出す教育」へ、そして、「知識を記憶する教育」から「知識を関連づけ、意味を創造する教育」へ変わらなければなりません。AI時代に人間がどのように読み、どのように考え、どのように他者と対話し、どのように自分の言葉で世界に参加するのかということが重要になります。

森 弘達(もり ひろたつ)先生
現在、学校法人札幌日本大学学園札幌日本大学中学校・高等学校副校長・吹奏楽部スーパーバイザー、学校法人電子学園iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授、特定非営利活動法人ロジニケーション・ジャパン副理事長、株式会社トリガーAI-Bouアドバイザー、国際バカロレアディプロマプログラム(IBDP)アドミニストレーター、シュピール室内合奏団アドバイザー、沖縄探究ラボ所長・森教育研究所所長。東京、北海道、沖縄を拠点に全国で教育活動を展開。著書に『ハイスコア!共通テスト攻略現代社会』(Z会)、『ほんとうの「国語力」が身につく教科書』(Z会)、『特化型小論文チャレンジノート志望理由・自己PR編』(第一学習社)、探究教材『FUTURE』volume.1・2・3・小学生版(SRJ)など多数。モノリス・ジャパンのYouTube番組『教育プロデュース・チャンネル』に出演。学校図書館司書教諭の免許取得、学校法人東京音楽大学指揮研修講座修了。国立大学法人東京学芸大学大学院では学校経営、学校組織マネジメント、学習する組織、私学経営等を研究し学位を取得。公立大学法人名桜大学、学校法人都築学園、学校法人明星学苑、学校法人札幌日本大学学園において、FD研修や教職員研修の講師を務めた。
学校法人昭和薬科大学附属高等学校・中学校教諭・進路指導部主任・生徒指導部主任・高校3学年主任・吹奏楽部顧問・ディベート部顧問、学校法人武蔵野大学附属千代田高等学院副校長、学校法人大妻学院大妻中学高等学校主幹・進路指導部長・探究科主任、学校法人明星学苑明星中学校・高等学校特別顧問、Z会映像コース講師・国語力研究所研究員、沖縄県沖縄次世代委員会委員(沖縄県知事委嘱)、浦添市未来まちづくり委員会委員(浦添市長委嘱)、浦添市てだこ市民大学運営委員・講師(浦添市長委嘱)、浦添市まちづくり生涯学習推進協議会委員(浦添市長委嘱)、税務大学校沖縄研修支所講師、一般財団法人日本私学教育研究所研究員、大前研一創設特定非営利活動法人政策学校一新塾講師、沖縄県吹奏楽連盟理事、国分寺市介護保険運営協議会委員(国分寺市長委嘱)、国分寺市高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画評価等検討委員会委員(国分寺市長委嘱)等を歴任。