昭和薬科大学附属高等学校・中学校 ディベート部の眼
「代理出産について考える」《昭和薬科大学附属高等学校・中学校》ディベート部の眼㉒
皆さんこんにちは。〈ディベート部の眼〉第22弾です。今回は、近年現実的な選択肢となりつつある「代理出産」について、その定義や国内外の現状について紹介していきます。現実には法的な課題や倫理的な問題を抱える「代理出産」ですが、関係者それぞれの立場に立ってこの制度を考えたとき、読者の皆さんの目には「代理出産」がどのような制度として映るでしょうか。ぜひ一緒に考えていただけると幸いです。

松隈一希 MATSUGUMA Kazuki
2026年度全国中学・高校選手権大会 高校の部出場
2026年度九州地区中学・高校選手権大会 高校の部6位
2025年度全国中学・高校選手権大会 中学の部 準優勝
2025年度九州地区中学・高校選手権大会 中学の部 3位 ベストゲーム賞
2024年度第4回西日本中学・高校ディベート交流会 B部門 1位
2024年度全国中学・高校選手権大会 中学の部 出場
2024年度九州地区中学・高校選手権大会 中学の部 4位 ベストゲーム賞
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導入
「将来、子どもを持ちたい」と考える人は、どのくらいいるのでしょうか。
日本財団(2026)の18歳意識調査によると、約6割の人が「将来、子どもを持ちたい」と回答しています。このことから、将来、子どもを持ちたいと考える人は少なくないことがわかります。しかし、病気や身体的な理由などによって、自分で妊娠・出産することが難しい人もいます。
そうした中、「子どもを持ちたい」という願いをかなえる方法の一つとして挙げられるのが代理出産です。近年、技術の進歩は目覚ましく、代理出産は現実的に可能な選択肢となりつつあります。しかし、代理出産には妊娠・出産する女性の負担や、生まれてくる子どもの親子関係など、さまざまな課題があります。
代理出産とはどのようなものなのか。そして、なぜ必要とされているのか。近年、注目されている代理出産について、詳しく考えていきたいと思います。
代理出産とは
そもそも代理出産という言葉自体、聞きなじみのない方も多いかもしれません。代理出産とは、子どもを望む女性に代わって、別の女性が妊娠・出産することです。代理出産には大きく分けて二つの方法があります。
1つ目は、夫の精子を第三者の女性の卵子と受精させて行われる方法です。基本的には、夫の精子を卵子提供者の卵子と体外受精させ、それを第三者の女性の子宮に移植し、妻の代わりに妊娠・出産してもらうという手順で行われています。そのため、夫には遺伝的なつながりがあるものの、妻には遺伝的なつながりはありません。
2つ目は、夫の精子と妻の卵子を体外受精させ、その受精卵を第三者の女性の子宮に移植する方法です。この場合、夫と妻の両方に子どもとの遺伝的なつながりがあり、妊娠・出産のみを第三者の女性に担ってもらいます。
このように、代理出産には、誰の卵子を使用するかによって二つの方法があり、それぞれ遺伝的なつながりを持つ人が異なります。
代理出産の現状
では、なぜ代理出産が求められているのか考えていきましょう。
・子どもを産めない女性
導入でも触れたように、病気や身体的な理由で子どもを産むことができない女性が多く存在します。日経新聞(2018)によると、生まれつき子宮がない「ロキタンスキー症候群」や、がん治療などで子宮を失った患者は、国内に6万〜7万人程度いるとされています。
「ロキタンスキー症候群」とは、生まれつき子宮や膣の一部が十分に発達しない病気です。また、がんの治療では、病気の治療を優先するために子宮を摘出しなければならない場合があります。このような女性の中には、子宮はないが卵巣が正常に機能している人もおり、自分の卵子を使って遺伝的につながりのある子どもを持つことができる場合があります。
しかし、自分の子宮で妊娠することができないため、子どもを持つためには別の方法が必要となります。このように、子どもを望んでいても、身体的な理由によって妊娠・出産そのものができない女性がいることが、代理出産が議論される背景の一つとなっています。
・日本では実施が難しい
一方、現状では、代理出産は法的には禁止されていないものの、日本産科婦人科学会の自主規制によりほぼ不可能なものになっています。日本産科婦人科学会(2026)によると、代理出産の実施は認められず、代理出産を希望するもののために生殖補助医療を実施したり、その実施に関与したりしてはならないとしています。つまり、日本産科婦人科学会の会員である医師が国内で代理出産を行うことは難しい状況にあります。
また、日本では代理出産について明確に定めた法律が長く存在しておらず、代理出産をめぐる法律や制度の整備についても議論が続けられてきました。つまり、代理出産に必要となる医療技術そのものが存在しないためにできないのではなく、医療技術とは別に、国内で実施するための制度やルールが整っていないことも大きな特徴です。
・海外の事例
また、海外では代理出産を一定の条件のもとで認めている国や地域があります。
例えば、イギリスでは、代理出産を原則として認めていますが、営利目的での代理出産は認められていません。具体的には、梅澤(2006)によると、営業目的の代理出産の斡旋と広告は犯罪とされています。また、法務省(2008)によると、イギリスでは代理出産によって子どもが生まれた場合、一度代理出産をした女性が母、依頼した男性が父とした上で、その後、裁判所で「親決定(parental order)」の手続きを行うことで、依頼した夫婦の実子とすることができます。
一方、アメリカでは、国全体で統一された制度があるわけではなく、州によって代理出産に対する法律や扱いが異なります。例えば、法務省(2021)によると、カリフォルニア州では、代理母の卵子を使わない代理母契約について、決められた手続きの条件を満たす場合に、裁判所への申立てによって、親となる意思を持って契約した人を親とする旨の命令を得ることができます。一方、条件を満たさない場合は、通常の親子関係のルールに従って決められます。
代理出産の課題点
子どもを持ちたいと考える不妊女性にとって、代理出産は大きな選択肢です。しかし、日本産科婦人科学会の規制によって簡単には行えない状況にあります。では、なぜ日本産科婦人科学会は代理出産を認めていないのでしょうか。ここでは、いくつかの代理出産の課題点を説明します。
・身体的リスク
代理出産には、代理母となる女性の身体に大きな負担がかかるという問題があります。日本産科婦人科学会(2023)によると、妊娠中には5%程度に高血圧、10%程度に妊娠による一過性糖尿病を発症するリスクがあり、分娩時に大出血、感染症、子宮破裂などにより0・5〜0・6%に生命に危険が及ぶ重篤な状態に陥る可能性もあるとされています。
また、代理出産は一般の妊娠や体外受精による妊娠と比べて、母体重症合併症のリスクが高いことも報告されています。株式会社M3(2024)によると、カナダ・オンタリオ州で2012〜2021年に行われた単胎出産を対象とした研究では、母体重症合併症(SMM)のリスクは、非生殖補助妊娠では2・3%、体外受精では4・3%だったのに対し、代理懐胎では7・8%でした。
このように、代理出産では、代理母が妊娠・出産に伴う身体的な負担やリスクを引き受けることになります。代理出産を考える際には、子どもを望む人の思いだけでなく、代理母の身体への影響についても十分に考える必要があると感じました。
・社会的圧力
代理出産には、社会的な圧力につながる可能性があるという問題もあります。伊勢田(2002)によれば、補助生殖技術について、技術がなければ不妊を不妊として周囲も本人も受け入れたはずなのに、技術が存在することで「使えるのになぜ使わないのだ」という形の圧力が生じる可能性を指摘しています。
このような圧力は、本人が自分の意思で将来のことを決めることを難しくしてしまう可能性があります。そもそも子どもを持ちたいかどうかは本人の自由であるはずです。そのため、代理出産が広く認められたとしても、それを利用するかどうかは周囲ではなく本人が決められる環境を作ることが必要だと感じました。
・代理母の経済的搾取
代理出産には、代理母の経済的な事情が関係する可能性があるという問題もあります。久具(2018)によると、代理懐胎は10か月間子宮を〝貸す〟行為という性質上、そこに対価が発生しやすく、実際に代理母を女性の収入源の一つとみなし、仲介業者を含めてビジネスとして大きな市場を形成している地域もあるとされています。
このように、代理出産ではお金を得ることを目的として代理母になる場合があります。特に経済的に困っている女性にとっては、報酬を得るために代理母になることを選ぶ可能性があります。しかし、そのような場合、本当に本人が自由な意思で選択したと言えるのかという問題が生じます。
経済的な事情によって代理母になることを選ばざるを得ない状況が生まれると、本人の意思による選択なのか、それとも生活のために仕方なく選んだものなのかを判断することが難しくなります。そのため、代理出産を考える際には、報酬だけを目的として経済的に困っている女性が選択することにならないよう、代理母の意思や立場を十分に考える必要があると感じました。
その他の制度
前述のように、代理出産はまだ課題が多く、簡単に実施へ踏み切るのは難しいのが現状です。そこで、今の日本でも実施されている、自身で妊娠・出産が難しい女性が子どもを持つ方法についていくつか紹介したいと思います。
・特別養子縁組
子どもを望む人が家庭を築くための制度として、特別養子縁組があります。こども家庭庁(2026)によると、特別養子縁組とは、子どもの福祉のために、実親との法的な親子関係を解消し、養親と実の子と同じ親子関係を結ぶ制度です。また、家庭裁判所の決定によって成立します。
特別養子縁組には、養親が夫婦であることや、原則として25歳以上であること、養子となる子どもが原則15歳未満であることなどの要件があります。さらに、縁組を成立させるためには、養親が子どもを6か月以上監護していることが必要です。
特別養子縁組は、代理出産とは異なり、妊娠・出産を通して子どもを持つ方法ではありません。しかし、子どもを望む人が子どもを持つことのできる方法の一つです。また、特別養子縁組は、子どもに安定した家庭環境を与えることを目的としている点にも特徴があります。しかし、夫婦と子どもとの間に遺伝的なつながりを持てないなどの欠点も存在します。
・子宮移植
また、子宮がない女性でも自身で子どもを産む方法として、子宮移植があります。朝日新聞(2025)によると、患者の女性から採卵し、夫やパートナーの男性との受精卵をつくり凍結した後、第三者から提供された子宮を女性に移植、そして、1年近く免疫抑制剤を使い、子宮が拒絶されていないことを確かめてから、受精卵を子宮に移植するという手順で行われます。また、出産後には移植した子宮を再び摘出します。
この方法は、すでに海外で実施されています。同資料によると、ヒトへの子宮移植は2000年にサウジアラビアで初めて実施され、2014年にはスウェーデンで、子宮移植を受けた女性から初めて子どもが誕生しました。また、現在までに世界で100例以上の子宮移植が行われ、70人以上の赤ちゃんが生まれたとされています。ただ、この方法も、現在は日本国内での実施例はなく、技術面や倫理面で多くの課題が残されています。
終わりに
代理出産は、子どもを望んでいるにもかかわらず、自分で妊娠・出産することが難しい人にとって、大きな意味を持つ方法の一つです。私も調べ始めた当初は、そのような人たちのために、日本でも代理出産を実施できるようにするべきだと考えていました。
しかし、調べていく中で、代理出産にはさまざまな課題があり、簡単に賛成や反対を決められる問題ではないことが分かりました。また、特別養子縁組や子宮移植など、代理出産以外にも子どもを持つための方法があることを知り、一つの方法だけを見るのではなく、それぞれを比較して考えることが大切だと感じました。
子どもを持ちたいという思いは大切にされるべきですが、その思いだけで制度を決めてしまうのではなく、代理母や依頼する夫婦、生まれてくる子どもなど、関係する人のそれぞれの立場から考える必要があります。今回の調査を通して、代理出産について多くの人が知り、それぞれの立場から考えることが、より良い制度を考えていくために大切なのではないかと思いました。私自身も、最初から一つの考えにとらわれず、さまざまな情報や意見を知った上で、自分の考えを深めていけるようになりたいと思います。