「子どもの貧困について考える」《昭和薬科大学附属高等学校・中学校》ディベート部の眼㉑

伊藝凜 IGEI Rin
2025年度 全国中学・高校選手権大会
中学の部 準優勝
2025年度 九州地区中学・高校選手権大会
中学の部 3位 ベストゲーム賞
2024年度 第4回西日本中学・高校ディベート交流会
B部門 1位
2024年度 全国中学・高校選手権大会
中学の部 出場
2024年度 九州地区中学・高校選手権大会
中学の部 4位 ベストゲーム賞
皆さんこんにちは。〈ディベート部の眼 第21弾〉です。
今回は、高校ディベート部に所属する高校1年生が自身の経験も交えながら、様々なデータをもとに「子どもの貧困」を紐解く、ディベート部らしい記事となっています。
日本では約9人に1人の子どもが「相対的貧困」に直面している現状をご存じの読者も多いと思います。特に深刻なのは母子世帯です。高い就業率の裏で、非正規雇用の多さや養育費の不払いに阻まれ、多くの親子が栄養不足や教育格差の危機に瀕しています。このような「子どもの貧困」は決して当事者だけの問題ではなく、将来的には巨額の社会的損失をもたらす日本全体の重要課題ということは意外と知られていません。「ジュクタン」を手に取った読者の皆さんも、すべての子どもが環境に左右されず夢を追える社会をどのように作っていくべきか一緒に考えてみてください。
導入
近年、「子どもの貧困」が問題視されるようになっています。その例として、最近ネットなどを中心に「良い親の元に生まれることができたかどうか」という意味でつかわれる「親ガチャ」といった言葉をよく耳にします。
では、皆さんは、日本ではどれくらいの割合で子どもが貧困の状態にあると思いますか。先進国と呼ばれ、比較的豊かな国である日本なので、あまり割合としてはそう高くないと考える人も多いかもしれません。しかし、厚生労働省(2022)によると、「子どもの貧困率」(17歳以下)は11・5%となっています。つまり、約9人に1人という割合で子どもが貧困に陥っているということです。特に深刻なのが、ひとり親世帯のこどもの貧困率です。同調査によると、ひとり親世帯の貧困率は44・5%に達し、約2人に1人が貧困に直面しているという状況です。また、子ども家庭庁(2021)によれば、ひとり親世帯の約89%が母子世帯ということから、ひとり親世帯の貧困問題は主に、母子世帯の貧困問題であると言えます。ここでは、主に母子世帯の貧困について考えていこうと思います。
貧困とは
貧困について考える際にまず、貧困の定義から確認していこうと思います。そもそも貧困とは「絶対的貧困」と「相対的貧困」の二つに大きく分けられます。
一つ目の「絶対的貧困」とは、国・地域の生活レベルとは無関係に、生きるうえで必要最低限の生活水準が満たされていない状態のことを示します。具体的には、世界銀行が定めた「1日に2・15ドル未満の生活」が絶対的貧困の定義とされています。 私たちが「貧困」と聞いてイメージするのはこの「絶対的貧困」ではないでしょうか。
続いて、「相対的貧困」とは、その国や地域の水準の中で比較して、大多数よりも貧しい状態のことを示します。所得でみると、世帯の所得がその国の等価可処分所得(手取り収入を世帯人員で調整したもの) の中央値の半分(貧困線)に満たない状態のことを言います。先ほどの子どもの貧困率というのはこの「相対的貧困」のことを指しています。
相対的貧困状態では、その社会での「標準的な生活」を送ることができず、例えば、食事、医療アクセス、学習・教育機会等での困りごとが生じていることが多くあります。
実際の数値で確認してみましょう。日本での貧困線は厚生労働省(2022)によると、127万円となっています。つまり、相対的貧困に陥っている世帯は毎月10万円程度で生活をしているということになります。住居費や、食費、光熱費といった生活費の内訳を考えてみると、相対的貧困は家計に大きな制約が生じる状態であるということがうかがえます。
貧困の現状
そうした貧困状態にある子どもたちは主に、栄養不足や教育格差といった問題に直面しているとされています。では、それぞれ具体的にどのような問題が生じているのか詳しく見ていきましょう。
・栄養不足
認定NPO法人キッズドア (2024)のアンケート調査から、親子2人暮らしの困窮子育て家庭における1カ月の食費からひとりあたりの1食分の食費を算出すると、約69%がおよそ166円以下、さらに約35%がおよそ110円以下となりました。これは、おにぎり1つ買うのがやっとという金額です。このような貧困状態にある子どもは、栄養不足になりやすいと言われています。同調査によると、物価高騰による日々の食事の変化では、「肉・魚を減らした」(57%)、「野菜を減らした」(57%)となっており、十分な食事がとれていないことが分かります。
実際に、 子どもの成長や健康状態についても、「子どもが風邪などの病気にかかりやすくなった」(28%)などの悪影響が出ています。また、「子どもの体重が増えていない」(18%)、「子どもの身長が伸びていない」(17%)となっており、「子どもが健康診断で栄養不良や肥満・やせ傾向を指摘された」という深刻な回答も13%ありました。このことから、十分な食事をとることができず、栄養不足に陥り、それが子どもの成長や健康状態に影響していることが確認できます。
・教育格差
先述した通り、貧困世帯は毎月10万円程度で生活しているため、塾や習い事に費用をかけるのは難しくなりそうです。実際、文部科学省(2016)の調査によると世帯年収が低くなるほど、子供の教育費(学校以外)への支出は少なくなっています。世帯年収200万円未満の世帯だと、39・0%が「支出はまったくない」と回答しています。
現在は、学校だけではなく塾や習い事で教育を受ける機会も多くなっているため、学校外の教育費がまったくないという状況は教育格差の拡大を助長してしまう可能性があると言えそうです。
また、貧困による学力の低下には「10歳の壁」というものが存在するとされています。
日本財団(2017)の分析(左図)によると、9歳ごろまでは困窮していない世帯の子どもと生活保護世帯の子どもの学力に大きな差はありませんが、10歳を境に大きく差が現れています。困窮していない世帯の子どもは緩やかに成績を伸ばしていますが、生活保護世帯の子どもは成績が伸び悩んでいることがわかります。
この学力差はもちろん大学進学率に影響しています。
文部科学省(2025)によると卒業者に占める大学・短期大学への進学者の割合は61・4%だったのに対し、先掲の子ども家庭庁(2021)によると生活保護世帯の子どもの大学進学率は39・9%となっています。
こうした、親の経済的困窮を理由に基本的な教育を受けられず、子どもが大人になった際にも貧困から抜け出せず、その子どもや孫まで貧困が続いていくことを「貧困の連鎖」と言い、問題となっています。
母子世帯の現状
母子世帯の貧困率が高い理由として、「女性が働ける場所が少ないからだ」という意見を耳にしますが、子ども家庭庁(2021)によれば母子世帯の86・3%が就業しているという状況にあります。この数値は決して低い数値ではなく、先進国でもトップクラスです。では、なぜ母子世帯はこうした貧困に陥りやすいのでしょうか。
・正規雇用に就きづらい
父子世帯の父親はもともと正規雇用として勤めていることが多い傾向にありますが、母子世帯の母親は出産を機に退職し、専業主婦やパートタイマーになった人も多くいます。そのため、離婚した後に正規雇用に就くことが難しく、雇用側もシングルマザーという理由で敬遠することもあります。シングルマザーとなると子どもが体調不良になると早く帰らなければならなかったり、子どもがいるため夜遅くまで働くことができなかったりと雇用側にも多くの不安があります。実際、子ども家庭庁(2021)によると「パート・アルバイト等」が38・8% (「派遣社員」を含むと42・4%) と非正規雇用の割合が高くなっています。また、正規雇用であったとしても低賃金や待遇の悪さなどから貧困に陥ってしまう場合もあります。このことはワーキングプア(働く貧困層)と呼ばれ問題になっています。夫婦二人いれば、両方の収入で補うことができますが、ひとり親だとそうはいかず、貧困に陥ってしまいます。
・養育費がもらえない
母子世帯になる理由のほとんどは離婚ですが、子どもがまだ未成年の場合、離婚相手である父親から養育費を受け取る権利があります。養育費があれば貧困に陥ることは少ないだろうと思う人もいるかもしれませんが、実際に養育費を受けとっている母子世帯は少なくなっています。子ども家庭庁(2021)によれば養育費の取り決めをしているのは46・7%、現在も受給している 28・1%となっています。そもそも取り決めをしている人が半数にも満たず、取り決めをしていたとしても約6割の人しか受給していないという状況にあります。
これらから、母子世帯は正規雇用に就きづらい、養育費を受け取っていない・受け取れないという状況が貧困に陥る原因となっていると考えられそうです。
貧困はなぜ問題なのか
子どもの貧困は、健康問題や教育格差、虐待、自殺などさまざまな問題の原因とされており、深刻な問題となっています。また、日本財団(2015)によれば15歳の子ども(2013年時点)のわずか1学年をとっても、経済損失は約2・9兆円に達し、さらに政府の財政負担は1・1兆円増えると推計されています。 これは、子どもの貧困に何も対処をしていないと将来的に社会を支える人が減少する一方、支えを必要とする人が増えるため、生活保護などの支出が増加し、最終的にはそれを社会全体で負担しなけらばならないということです。このことから、子どもの貧困は決して、私たちとは関係のない問題ではないということが分かります。
終わりに
子どもの貧困は、当事者だけの問題ではなく、日本社会全体で向き合うべき重要な課題です。日本は豊かな国であると言われていますが、その中でも経済的な困難を抱えながら生活している家庭は少なくありません。しかし、その現実は見えにくく、多くの人に十分理解されているとは言えない状況です。貧困の影響は日々の生活だけでなく、教育や進路、そして将来の夢や希望にも及んでいます。子どもたちが家庭の経済状況を理由に進学や夢を諦めることのない社会を実現するためには、行政による支援制度の充実はもちろん、地域社会や周囲の人々の理解と支えも必要だと思います。
私自身も母子家庭で育ち、子どもの貧困や母子世帯が抱える課題は決して他人事ではありませんでした。しかし、これまで多くの人に支えられ、助けられながら成長してきたからこそ、周囲の支えがどれほど大きな力になるのかを実感しています。
こうした貧困の現状を少しでも多くの人が知り、理解を深めることが、貧困に苦しむ家庭や子どもたちを支える社会づくりにつながるのではないでしょうか。そして将来は、これまで支えられてきた側としての経験を生かし、今度は誰かを支えられる大人になりたいと思います。
参考資料
厚生労働省(2022)「国民生活基礎調査の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/dl/14.pdf
子ども家庭庁(2021) 「令和3年度全国ひとり親世帯等調査」
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/f1dc19f2-79dc-49bf-a774-21607026a21d/9bde9c85/20230725_councils_shingikai_hinkon_hitorioya_6TseCaln_01.pdf
日本財団(2015)「子どもの貧困の社会的損失推計レポート」
https://www.nippon-foundation.or.jp/wp-content/uploads/2019/01/wha_pro_end_03.pdf
日本財団(2017)「家庭の経済格差と子どもの認知・非認知能力格差の関係分析」
https://www.nippon-foundation.or.jp/wp-content/uploads/2019/01/wha_pro_end_06.pdf
認定 NPO 法人キッズドア (2024)「子育て家庭アンケート調査結果報告」
https://kidsdoor.net/data/media/posts/202407/2024%E5%A4%8F%20%E5%AD%90%E8%82%B2%E3%81%A6%E5%AE%B6%E5%BA%AD%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%83%88%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E7%B5%90%E6%9E%9C%E5%A0%B1%E5%91%8A.pdf
文部科学省(2016)「子供の貧困など格差の実態」
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/siryo/__icsFiles/afieldfile/2016/06/27/1373565_13.pdf
文部科学省(2025)「令和7年度学校基本統計調査結果のポイント」
https://www.mext.go.jp/content/20251226-mxt_chousa01-000044291_01.pdf