第20回 キュリオス沖縄10周年記念スペシャル対談[〜好奇心の向かう先へ〜キュリオス沖縄]
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キュリオス沖縄
理事 宮崎悠さん
琉球大学で博士課程を修了後、2016年に自然科学教育事業を立ち上げる。専門は分類学で、沖縄の自然を活用したガイド事業や探究学習プログラムを展開。子どもたちに自然の面白さを伝える活動を続けている。
沖縄の豊かな自然についてのコラム連載「好奇心の向かう先へ。」が20回を迎えた今回は、スペシャル対談としてキュリオス沖縄理事の宮崎氏とジュクタン発行人、喜屋武による対談が実現しました。一歩引いた視点から沖縄の教育現場を見つめてきた喜屋武と、研究者を目指す道から自然科学に関わる観光・教育事業者へと転進した宮崎氏が、現代の教育に求められる本質的な価値について語り合いました。
設立のきっかけ
喜屋武 まずは、キュリオス沖縄を設立されたきっかけについて教えてください。
宮崎 設立は2016年、きっかけは複数ありました。まず博士課程で研究をしていた時に、本職の研究者として一本でやっていくことに個人的な限界を感じたことです。研究は競争が激しく、専門分野外の世界との交流も少ない環境でした。そんな中で、自然科学のことを子どもたちをはじめとした専門外の方に伝えるという仕事に憧れを持っていました。沖縄には素晴らしい自然があるにも関わらず、それをコンテンツにした観光事業が当時は非常に少なかったんです。だからせっかくの沖縄の自然を活かして、それを見せて素晴らしさを伝えるコンテンツを作りたいと思いました。さらに、同じ学科で生き物の研究をしているメンバーたちのスキルを活かしたいという想いもありました。
喜屋武 20代という若さで0から1つのビジネスコンテンツを立ち上げて10年続けるのというのはすごいことですよね。
宮崎 何か大きなことをやろうというよりは、自分の好きなことで細々食っていければいいかなというスタートでしたが、10年続けることが出来ました。ジュクタンも昨年で10周年でしたね。創刊のきっかけは何だったのでしょうか。
喜屋武 2014年まで勤めていた広告代理店で短大や専門学校などの学校案内の制作などを通して集客サポートに関わっていました。その知見を活かして、学校と社会をつなげる役割を担いたいと考えていましたが、その中で皆さんがどういう基準で塾を選んでいるのかという疑問が生まれました。塾を選ぶための情報が当時のインターネット上にはなかなかなくて、教室や先生の顔が見えるような形で発信して親御さんや学生が安心して塾選びができるような媒体を作りたいと思ったのがきっかけです。僕自身が小中と塾に通って結果を出せなかったということもあります。
宮崎 実は僕、中学受験組です。子どもの頃は横浜に住んでいたのですが、当時中学が荒れていたということもあって、地元の公立から離れたところへ行こうというモチベーションで頑張れました。
自然科学教育と機会の格差
喜屋武 昔は那覇にも自然がたくさんあって、子供の頃は学校帰りに虫獲りをしたりと本能的に自然と触れあっていましたが、今は身近な自然がなくなりつつありますね。だから大人が自然と触れ合う機会をつくらなければいけない時代なのだと思います。その機会を誰が作るのか。親か、学校か、塾か。キュリオスさんのようなプロにガイドしてもらうというのは子どもの自然科学教育においてとても大きなものになると感じています。
宮崎 今はインターネットでいくらでも情報を得ることは出来ますが、やはり機会の格差というのはとても大きい。僕の妹は今、東京で子育てをしているのですが、サイエンスに限らず学びを得られる公共施設や博物館などへのアクセスが良く数百円で利用出来るそうです。キュリオスの体験プログラムに参加するのは、圧倒的に東京や大阪などの都市圏でそういった文化資本にアクセスしやすい家庭です。沖縄では助成金などを使った自然教育体験などがあっても、参加するのは那覇に住んでいるアンテナが高い家庭が多い。沖縄に国立自然科学博物館をという動きもありますが、そこから将来の研究者へとなるとやはり間口が狭い。身近に自然があっても、子どもの興味関心に寄り添ってくれる人がいないとそれを科学教育に繋げたり、小中高と育っていくなかでモチベーションを保つことが難しいので、そういった層へのアプローチが出来たらと考えています。
喜屋武 キュリオスさんのプログラムは、ただ見て回るだけではなく、家族など小グループの貸し切リツアーで、道具を使ってなにかを試したり、採った植物の味を確かめたりと一歩踏み込んでいますよね。
宮崎 キュリオスのプログラムの本質は、生き物が好きで様々な知識を持っているガイドが、現場で一緒に観察するという行為です。生き物を現場で見せながら、分類、形態、生態などについて、お客さんの興味に応じて様々な切り口で解説します。人間との関わり、毒の有無、食べられるかどうか、人間の活動による影響など、子どもによって何が刺さるか違ううので、いろんなアプローチで解説して回ることを売りにしています。
喜屋武 最近よく話題に上がる探究学習は問題解決力を養うことがベースにありますね。宮崎さんらが専門とする自然科学分野は、自然界の原理や法則を理解し、論理的思考力や科学的な問題解決力を育てるという探究学習に繋がると思いますがいかがでしょうか。
宮崎 キュリオスのプログラムは受験に直接的に役立つというものではないので、保護者の方がどう感じているかは分かりません。しかし、子どもたち一人ひとりが本当に興味を持ったことを自主的に探究する体験はとても大切です。私たちのプログラムでも、子どもたちが自分で「これをやりたい、これを調べたい」と言った際に、その分野に詳しい大学院生などのサポートを受けて一歩踏み込んだ研究ができるように心がけています。
今こそ、図鑑が役に立つ
喜屋武 今はインターネットで何でも調べられますが、今でも図鑑は使いますか?
宮崎 インターネットの時代になった今でも、図鑑の役割は正直全く衰えていないです。インターネットには膨大な情報がありますが、逆に今はちゃんとした情報を取りにくくなっているという面があります。図鑑は体系的に整理された情報を提供してくれる貴重な存在です。昔の図鑑には絵や標本、自然の中の姿を写真に撮ったものが掲載されていましたが、また今の図鑑は、生きたままの昆虫を白い紙の上できちんとライティングして撮った写真で全掲載分統一しているものなどもあり、面白いですよ。子どもたちは図鑑を見て、実物を見た時に「こんなに大きいな、こんなに小さいな」と驚いています。うちのお客さんからも「子どもが図鑑ばかり見ている」という話をよく聞きます。 いつかおすすめの図鑑を紹介するみたいなイベントもやりたいものですよね。
学びの行く末を考える
喜屋武 宮崎さんは大学院で学ばれていますよね。大学まではなんとなくイメージが湧きますが、大学院での研究活動とはどういったものなのでしょうか?
宮崎 大学では既存の知識を体系的に学ぶことがメインですが、大学院での研究になると誰も知らないことを自分で調べることになります。世界中の誰も調べていないであろう小さなことでも、新たな発見を積み重ねる作業が研究の本質です。それが正しいという確証もない中で、データや証拠、過去の研究との比較を通じて確信を得るまで詰めていく途方もない作業なんです。論文を出版する時には、自分しか知らない情報を世界に発表し、世界に新しい知識を一つ増やすことになります。高校生や中学生の自由研究や部活の研究でもレベルの高いものになると、やっていることは本質的にはこれと同じです。そういうことを続けてきた人の中でも、これまで続けてきた研究をここで辞めたくない、もっと掘り下げたいという人が大学院に進学していきます。
喜屋武 最近は県外進学するお子さんが増えていますね。メッセージをお願いします。
宮崎 県外に出る子どもたちには、沖縄の自然について「自分たちの故郷はこういうところだよね」という認識を持ってほしいと思います。文化的なものとしてはたとえば空手などがありますが、沖縄の地形が隆起サンゴ礁でできていることや、特有の自然環境についても知識として持って将来的に「沖縄のこれを残さなければいけない」という意識に繋がることを期待しています。
喜屋武 県外の中高一貫校が沖縄の受験市場にアクセスしているのは、沖縄の人口増加率の面もありますが、多様性を確保したいからというのもありますね。沖縄の子どもたちの独自の感性と全国から集まる子どもたちが混ざり合うことで生まれる相乗効果を期待しているのでしょうね。
今年度、キュリオス沖縄では県内在住者限定のツアーやワークショップを企画しています。公式LINEにて随時情報を発信していきますので、気になる方は登録お願いします。
一般社団法人 キュリオス沖縄
沖縄県那覇市前島2-5-17 福琉産業ビル前島6階 TEL 080-9851-883